相続人が海外在住者の場合の遺産分割協議書と「署名証明(サイン証明)」
その友人とは中学校、高校生、大学生、そして社会人になってもつきあいは続いており、小さい時からお互いの家を行き来したり、時には泊めてもらったりし、今も毎年宿泊ゴルフにいくような仲です。
亡くなられた友人の父親とも社会人なりたてのころまで会えば挨拶をさせてもらっていました。お亡くなりになった話を聞いた時は、驚くととも非常に残念な思いがありました。
亡くなってしばらくした後、たまたまその友人と会う機会があり、その際、私が行政書士をやっているのを知っていたため、相続に関しての相談があったので、その時の話を少しだけ紹介しようかと思います。
相続人は、友人の母親(被相続人の配偶者)、友人(長男)と友人の弟二人。
友人以外は長い間、会っていませんでしたが、相続人は勿論皆知っている人たちです。
友人からは、まずは、遺産分割協議書を作るべきか、どんな内容のものを作った方がいいかなどの相談がありました。
相続する財産には金融資産に加え、不動産も含まれているとのこと。
金融機関によっては、法定相続通り分割するような場合であれば、遺産分割協議まで求めない場合もあるようですが、不動産名義を変えることも考えると実印を押した遺産分割協議書を作成するべきとアドバイスをしました。
その上で、私の方からは、係争する可能性がないのであれば、簡単な内容の遺産分割協議書でも問題にならないと考えられる旨を話ましたが、弟さんが海外在住で日本に住民票がないことで印鑑証明書が発行されないことの話になりました。
印鑑証明書が発行されない場合は、法務局な銀行では「署名証明書」(※)を求めてきます。
弟さんは、現在中国に住んでいるのですが、領事館のある都市まで相当離れており、「署名証明書」を取得すること自体が相当な時間とお金(中国国内の飛行機代等)がかかるので、「署名証明書」を取得しない方法がないか? という話にもなりました。
私からは、銀行や法務局といった相手が認めるやり方に従うしかなく、残念ながら「署名証明書」を取得してもらうしかないとつれない回答をするしかありませんでした。
なお、一般的には、相続財産の明確な分割方法が示されている場合は、遺産分割協議書を作成する必要がないとされています。
被相続人となる方は、相続人が海外在住になるようなことまで想定するのは難しいでしょうが、きちんとした遺言書を作成することで残された相続人の手続きが軽減される可能性があることを知っておいても損はないかと思います。
(※)「署名証明書」
海外在住者は、日本国内の住民票を抹消しているケースが多く、印鑑証明書を取得することができません(なお、住民票登録を残している場合には、日本に帰国して印鑑明書を取得することが可能です)。
このため、上記のような相続手続において、海外在住者は、「印鑑証明書」に代わる資料として、「署名証明書」を準備しなければならないものとされています。
署名証明書とは、「日本に住民登録をしていない海外に在留している方に対し,日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続きのために発給されるもので,申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するもの」(外務省)であり、申請者が、在住地の日本領事館等の「公館」に出向いて申請しなければならないものとされています。
なお、署名証明書には2種類あり、どちらの証明形式が必要なのかについては、あらかじめ金融機関や法務局等に確認をしておく必要があります。
(形式1)本邦で署名する書類が用意されており、その書類に署名をしてその署名を証明するもの(貼付型)
(形式2)当館で作成した書式に署名をして証明するもの(単独型)
<発給条件>
・日本国籍を有していること。
・日本に住民登録がないこと。
・署名する本人が来館し申請を行うこと。
また、遺産分割協議書以外にも、金融機関等によっては、署名押印を求められる資料が存在する場合があり、別途署名証明書を取らなければならない場合がありえるため、注意が必要です。